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僕の隠し事

作者: 西禄屋斗
掲載日:2019/05/13

「ねえ、ヒロシ。私に隠し事してない?」


「隠し事?」


 ファミレスのテーブル席で真向かいに座ったユイから唐突に言われた僕は、何のことやら分からず、戸惑いの表情を浮かべた。


 ユイと付き合い始めて半年。自分で言うのも変だけど、僕らはずっと上手くやってきた。これまでにだってケンカのひとつもしたことがないくらいだ。


 それなのに今日のユイは明らかに不機嫌な様子だった。僕には彼女を怒らせるような心当たりなど何もない。そもそも隠し事とはどういうことだろう。


 僕が自問自答していると、ユイはこのままでは埒が明かないと思ったのか、やがて意を決したように口火を切った。


「ナオコが教えてくれたんだけど――あっ、ヒロシも会ったことあるでしょ、同じ大学のナオコ――その彼女がね、一昨日の夜、このお店にいるヒロシを見かけたんだって」


「えっ!?」


「そのとき、ヒロシ、キレイな女の人と一緒だったって聞いたんだけど」


「………」


「その女の人って、誰?」


「誰って……それは……」


 僕は急に声が出なくなった。喉に何かがつかえたような感じ。店内は空調が程よく効いていて快適なはずなのに、額にじわっと嫌な汗が滲む。


(み、見られた……!)


 そのとき、僕はどう言い逃れようかと、頭の中をフル回転させた。よりにもよって、ユイにバレてしまうとは。ここは何とかうまいウソを考えないと――


 そんな僕の顔をユイはジッと見つめてきた。僕が動揺しているかどうか、見極めようとしているのだろう。残念ながら、根が正直者の僕はポーカーフェイスに自信がない。


「やっぱり……ナオコの話は本当だったのね……」


 ユイは落胆したようだった。きっと僕が浮気をしたと確信したのだろう。


(ええい、何とか誤魔化さなければ――!)


 僕は焦りまくった。その結果――


「あ、あれは……姉ちゃんだよ!」


 口をついて出たのは、あまり深くも考えていない言い訳だった。しかし、今さら前言撤回は出来ない。押し通すのみだ。


「お姉さん!?」


「そ、そそそ。久しぶりに奢ってやるから、一緒に食事をしないかって誘われてさあ……」


 ユイはまじまじと僕を見つめた。


 実際は兄貴とのふたり兄弟で、姉なんかいない僕は、懸命に目を逸らさぬようにする。一瞬でも逸らしたら、僕のつたないウソが見破られてしまうのではないかと恐れて。


 ユイは疑いを拭いきれない様子で黙り込んでいた。


(やっぱり、こんな見え透いたウソでは逆効果だったか!?)


 どうしたら彼女を信じさせられるのか、僕は必死に考えた。


 思案した末、僕はポケットからスマホを取り出すと、一枚の画像を呼び出した。一昨日、ここで撮影した写真だ。


「ほら、これが姉ちゃんだよ。僕に似ているだろう?」


 イチかバチか、僕は一世一代の賭けに出た。


 ユイは僕の手からスマホを受け取ると、写真と目の前にいる僕の顔を交互に見比べ始める。たっぷり一分は眺めていただろうか。


 その間、僕は生きた心地がしなかった。


(どうかユイが、僕と写真の画像を似ていると判断してくれますように――)


 やがてユイは、ふふっ、と笑った。


「ホントだ! ヒロシそっくり! へえ、ヒロシにこんなお姉さんがいるなんて知らなかったわ!」


 どうやらユイが信じてくれたようだと分かり、僕はホッと胸を撫で下ろした。


「ごめん、話したことなかったよね、はははっ……!」


「しかも凄い美人だし――ねえねえ、ヒロシもこんな感じで女装とかしてみたら、結構、イケんじゃない!?」


 悪戯っぽい眼差しを向けてくるユイに対し、僕はスマホを返してもらいながら引きつった笑みを向けた。


「あはははっ、冗談はやめてよ! 僕が女装したって似合いやしないって!」


「えーっ、似合うよ、絶対!」


「無理無理ッ! 勘弁してよ!」


 動揺を隠すようにしながら、僕は笑い飛ばした。でも、ユイの見立ては間違っていないかもしれない。


 何たって、あの写真で隣に写っていたのは姉などではなく、念願のニューハーフになった僕の兄貴なのだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] 隠す必要あるのかな、、、 お姉さん(意味深、、、)
2019/05/20 21:38 退会済み
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